妊娠中も体を動かしたい気持ちは自然なものですが、行う運動は選ぶ必要があります。
普段なら効果的な「マウンテンクライマー」という運動は、実は妊婦さんにとって思いがけないリスクがいっぱいなんです。転倒の危険だけでなく、胎児への影響も考えると、妊娠中に避けるべき運動の代表例といえるでしょう。
この記事では、マウンテンクライマーがNG理由と、代わりに安心して取り入れられる運動について詳しくご紹介していきます。
マウンテンクライム(クライマー)ってどんな運動?妊婦さんNGの理由は?
マウンテンクライマーは効率よく全身を鍛えられる人気のエクササイズですが、妊娠中の体には大きな負担がかかります。特に妊娠によって変化する体のバランスや関節への負担を考えると、避けるべき理由がいくつもあります。それぞれの理由を詳しく見ていきましょう。
マウンテンクライマー(クライマー)とは
マウンテンクライマーは腕立て伏せの姿勢から始まるダイナミックな全身運動です。基本姿勢として腕立て伏せのような体勢をとり、そこから片足を素早く胸に引き寄せる動作を左右交互に繰り返します。この動きによって上腕二頭筋や上腕三頭筋といった腕の筋肉はもちろん、大臀筋、腸腰筋、腹直筋などの下半身や体幹の筋肉まで幅広く鍛えることができます。
通常のトレーニングでは短時間で効率よく全身を鍛えられる優れた運動方法ですが、この動きの特徴である素早い動作や不安定な姿勢が妊婦さんにとっては大きなリスクとなるのです。体幹を安定させながら行う必要があるため、妊娠によって重心が変化している状態では非常に難しく危険な運動といえるでしょう。
バランスを崩しやすい
マウンテンクライマーの最大の問題点は、妊婦さんがバランスを崩しやすいという点です。妊娠中はホルモンバランスの変化により、通常よりも関節が緩みやすくなっています。特にリラキシンというホルモンが分泌されることで骨盤周りや手首、足首などの関節が柔らかくなり、不安定になりがちです。
そのような状態で片足を持ち上げたり、素早く動かしたりする動作は転倒リスクを高めてしまいます。もし転倒してしまうと、お腹に大きな衝撃が加わり、最悪の場合胎盤剥離や破裂などの深刻なトラブルにつながる可能性もあるのです。
妊娠後期になるほどお腹が大きくなり、さらに体のバランスが取りにくくなります。普段から運動に慣れている方でも、妊娠中の体は通常とは異なるため、バランスを崩しやすい運動は控えるのが賢明です。
体への負荷が大きすぎる
妊娠中は体重が増加するため、関節にかかる負担が自然と大きくなります。特に手首や肩、腰などへの負担は出産前から徐々に増えていきますが、マウンテンクライマーはこれらの部位にさらに大きな負荷をかけることになります。
また、激しい運動は子宮収縮を引き起こす可能性があり、早産のリスクを高めることもあります。妊娠中の運動は全身の筋力や体力の維持、リフレッシュを目的に行うものであり、あえて負荷の大きい運動を取り入れる必要はありません。
妊娠中の体に優しい適度な運動を選ぶことが大切です。特に妊娠後期は子宮が大きくなり、内臓も圧迫されやすい状態のため、腕立て伏せのようなうつ伏せの姿勢自体が負担になることもあります。
胎児への酸素供給が不足するリスクがある
激しい運動をすると、筋肉への血液供給が増えるため、他の部位への血液供給が一時的に減少します。妊娠中は母体と胎児の間で血液供給の競合が起こり、胎児が低酸素状態になる危険性があります。
マウンテンクライマーのような高強度の運動では、筋肉が多くの酸素を必要とするため、胎盤を通して胎児に届く酸素が減ってしまう可能性があるのです。もちろん、短時間であればすぐに回復しますが、運動強度が高いほど、また運動時間が長いほどこのリスクは高まります。
胎児にとって安定した酸素供給は非常に重要です。妊娠中の運動は母体の健康を維持しながらも、胎児の安全を第一に考える必要があります。そのためには、マウンテンクライマーのような高強度の運動ではなく、より緩やかで安全な運動を選ぶことが望ましいでしょう。
妊婦さんが代わりに行える運動の例
マウンテンクライマーはNG運動ですが、妊娠中でも安全に行える運動はたくさんあります。これからご紹介する運動は、母体と胎児の両方に優しく、かつ妊娠中の体調管理にも役立つものばかりです。自分の体調と相談しながら、無理なく取り入れてみてください。
ウォーキング
ウォーキングは妊婦さんにとって最も安全で手軽に続けられる運動の一つです。特別な道具や施設も必要なく、時間も場所も自分のペースで選べるのが大きな魅力です。
適度な有酸素運動は血行を促進し、むくみ予防にも効果的です。また、気分転換になるだけでなく、適度な疲労感が良質な睡眠にもつながります。ただし、無理のないペースで行うことがとても重要です。息が上がりすぎない程度のスピードを心がけましょう。
できれば夫や家族と一緒に歩くと、万が一の体調変化にもすぐに対応できるので安心です。また、転倒リスクを減らすため、でこぼこした道や混雑した場所は避け、歩きやすい靴を選ぶことも大切です。暑い日や寒い日は無理をせず、室内でのウォーキングに切り替えるなど柔軟に対応しましょう。
水中運動(スイミング・ウォーキング)
水中での運動は、浮力によって体重による関節への負担が大幅に軽減されるため、妊婦さんにとって非常に優しい運動方法です。特に妊娠後期になるとお腹の重さで腰や膝に負担がかかりやすくなりますが、水中ではその負担が軽くなるため、快適に運動できます。
スイミングは全身の筋肉をバランスよく使うため、筋力維持にも効果的です。また、水中ウォーキングは泳ぎが苦手な方でも取り入れやすく、水の抵抗によって陸上よりも効率よく筋肉を使うことができます。
水温が適切なプールを選ぶことも大切です。体が冷えすぎないよう、30〜32度程度の水温が理想的です。また、プールサイドは滑りやすいので、移動の際は特に注意が必要です。水中運動の後はしっかり体を拭いて、保温することも忘れないようにしましょう。
下半身や体幹を意識した筋力トレーニング
妊娠中も適度な筋力は必要です。特に下半身の筋力は出産時にも役立ちますし、体幹の筋力は妊娠中の姿勢維持に欠かせません。安全に行える筋力トレーニングを取り入れることで、出産に向けた体力づくりができます。
壁や安定した椅子を支えにして行うスクワットは、太ももやお尻の筋肉を鍛えるのに効果的です。また、四つん這いになって行うペルビックティルト(骨盤傾斜運動)は骨盤周りの筋肉を強化し、腰痛予防にも役立ちます。
筋力トレーニングを行う際は息を止めないことが大切です。息を止めると血圧が上昇し、胎児への血流に影響を与える可能性があります。また、お腹を圧迫するような動きは避け、無理のない範囲で行いましょう。
妊娠中の運動で気をつけるべきポイントは?
妊娠中に運動を行う際は、通常よりもさらに注意が必要です。母体と胎児の両方の健康を守りながら、適切に運動するためのポイントを押さえておきましょう。安全に運動を続けるためには、いくつかの基本ルールを守ることが大切です。
医師に相談してから始める
妊娠中の運動は、必ず事前に担当医に相談してから始めることが大原則です。妊娠の経過は一人ひとり異なり、切迫早産のリスクや高血圧など、運動を控えるべき状態の方もいます。定期検診で妊娠経過に問題がないことを確認してから、どの程度の運動が適切か相談しましょう。
特に持病がある場合や過去に流産を経験している場合は、より慎重に医師のアドバイスを受ける必要があります。
医師からのOKが出たら、徐々に体を慣らしながら始めることが大切です。いきなり長時間や高強度の運動を始めると、体に負担がかかりすぎてしまいます。5分程度の短い時間から始めて、体の反応を見ながら少しずつ時間を延ばしていくことをおすすめします。
体調管理を徹底する
妊娠中は日によって体調の変化が大きいのが普通。その日の体調に合わせて運動の有無や強度を決める柔軟さが必要です。少しでも調子が悪いと感じる日は、無理をせず休息を優先しましょう。体調不良を我慢して運動を続けることは、母体にも胎児にもリスクとなります。
運動中に気をつけるべき症状としては、お腹の張り、性器出血、過度の疲労感、心拍数の急上昇、めまいなどがあります。これらの症状を感じたら、すぐに運動を中止して休息を取ることが大切です。症状が改善しない場合は医師に相談しましょう。
また、妊娠中は体温調節機能が通常より低下しているため、熱中症のリスクも高まります。特に暑い季節や室内が暖かい環境では、こまめな水分補給と休憩を心がけ、体温上昇を防ぐことが重要です。
こまめに休憩を取る
妊娠中の運動では、短時間の運動と休憩を交互に行うことが理想的です。連続して長時間の運動を行うよりも、10〜15分程度の運動を行った後に数分の休憩を入れるなど、こまめに休むことで体への負担を軽減できます。
休憩時間は体調チェックと水分補給の絶好のタイミングです。脈拍が落ち着いているか、息切れや疲労感はないか、お腹の張りや痛みはないかなど、自分の体の状態をしっかり確認しましょう。また、妊娠中は脱水症状になりやすいため、のどが渇いていなくても定期的に水分を摂取することが大切です。
休憩の際はできるだけ座るか横になって体を休めるようにしましょう。立ったままの休憩だと、下半身の血流が滞りやすく、むくみや静脈瘤のリスクが高まります。できれば足を少し高くして休むと、むくみ予防にも効果的です。
安全な環境で実施する
妊娠中の運動は、安全な環境で行うことが絶対条件です。転倒のリスクがある場所や、混雑している場所は避け、平らで歩きやすい場所を選びましょう。室内で運動する場合も、滑りにくい床や、手すりなど支えになるものがある環境が理想的です。
また、一人で運動するよりも、パートナーや家族、友人など誰かと一緒に行うことで、万が一の体調変化にも対応しやすくなります。特に妊娠後期は、突然の体調変化が起きる可能性もあるため、一人での運動は避けるようにしましょう。
さらに、緊急時にすぐに病院に行ける環境を選ぶことも大切です。遠出をしての運動は避け、かかりつけの産婦人科が近い場所での運動が安心です。携帯電話を持ち歩き、緊急連絡先をすぐに呼び出せるようにしておくこともおすすめします。
まとめ
妊娠中のマウンテンクライマーは、バランスを崩しやすく転倒リスクが高いことや、体への負荷が大きすぎること、さらに胎児への酸素供給が不足する可能性があることから、避けるべき運動であることがわかりました。
代わりに、ウォーキングや水中運動、安全な筋力トレーニングなどを取り入れることで、妊娠中も適度に体を動かし、健康維持することができます。これらの運動は母体への負担が少なく、胎児にも安全です。
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